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「秋山」
教室に入る手前。
低い声が聞こえて、女戦士が、プリンセスのそれになる。
「秋山」
私は、ゆっくりと振り向いた。
廊下の窓枠に長い手足を持て余してよりかかっているそいつ。
酷薄そうな薄い唇に、表情のあまり変わらない涼やかな目元。
ゆるやかなクセのある、たっぷりした量の黒髪。
「なに?加々美」
何?加々美史人。
中学3年から、今日まで、今この瞬間も
ずっと私が勝手に大好きな加々美。
「爪から、血出てる」
加々美は、何の感情も読み取れない声と顔でそういうと
私を追い越して教室へと入った。
あわてて指を見ると、
無意識に噛んでいる短い爪から
血が出ていた。
こんな私は、加々美に似合わない。
魔法が解けたプリンセスは、女戦士にも戻れないまま
教室へと入った。
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