ナナ

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胃の入り口辺りがぎゅっと絞られるような感覚がした。 「また爪かんでるの。汚い。あと、あんたが帰ってくると臭いのよ。 本当に、お父さんにそっくりの汚い子ね」 少しろれつの回らない口調と血走った白目で お母さんは私をにらみつけた。 私は、 「ただいま」 と一言いうと、勉強に戻った。 早く、早く頭の中を室町時代に戻さなくちゃ。 こんな世界はうそなんだから。 今のこの私の身体も、この悪臭とゴミだらけの家も 美人だったお母さんがこんなふらふらなのも 全部、悪夢だから。 集中しなくちゃ。 集中しなくちゃ。 ふいに、部屋の明かりが消えた。 教科書から顔を上げると、お母さんがスイッチを押していた。 「あんた、何様のつもり?早く学校やめて、働いて、家に金をいれなさい」 室町時代に行けなくなった私は また爪をかんでいた。
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