34人が本棚に入れています
本棚に追加
胃の入り口辺りがぎゅっと絞られるような感覚がした。
「また爪かんでるの。汚い。あと、あんたが帰ってくると臭いのよ。
本当に、お父さんにそっくりの汚い子ね」
少しろれつの回らない口調と血走った白目で
お母さんは私をにらみつけた。
私は、
「ただいま」
と一言いうと、勉強に戻った。
早く、早く頭の中を室町時代に戻さなくちゃ。
こんな世界はうそなんだから。
今のこの私の身体も、この悪臭とゴミだらけの家も
美人だったお母さんがこんなふらふらなのも
全部、悪夢だから。
集中しなくちゃ。
集中しなくちゃ。
ふいに、部屋の明かりが消えた。
教科書から顔を上げると、お母さんがスイッチを押していた。
「あんた、何様のつもり?早く学校やめて、働いて、家に金をいれなさい」
室町時代に行けなくなった私は
また爪をかんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!