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「戦逃れで、このムラにお世話になっておりますが、見てのとおり、
もう、この幼子を連れて逃げることができませぬ。
歯も売り飛ばし、髪も売り、水を飲みながら生きて参りました。
もう、どこへ逃げても同じでございましょう」
侍は、ふぅと息を吐いた。
「そんな話、このご時勢だ。ごろごろしている。聞き飽きておる。
それにしても、ばば、いや、そなたは何だか品がある。出自は聞くまい。
しかし・・・よし、分かった。その子を私に預けてはいかがか?
私とて、明日の決戦で守りぬける自信はないが、
縁者の助けもなく、母子で逃げても
確かにの垂れ死ぬ算段は目に見えておる。いかがか?」
「なぜ、見知らぬお方が私たち親子を助けるのです?」
「・・オレには、弟がおってな。正確には、おった。
オレは、我が身を守る為だけに、その幼い弟、母を同じくする弟を切った。
実のところ、最初はこの家に人があらば殺し、我が宿とするつもりでおった。
しかし、おまえの、ガキの顔をみて、気が変わった。
名は?」
「犬治朗と申します。今年、6歳になりました」
「よし、分かった。犬治朗。お前は今日で母と別れろ。
お前はオレの養子になれ。
生き残れ。お前の母の分も、オレの弟の分も」
「嫌だ!」
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