元弘3年5月15日

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「戦逃れで、このムラにお世話になっておりますが、見てのとおり、 もう、この幼子を連れて逃げることができませぬ。 歯も売り飛ばし、髪も売り、水を飲みながら生きて参りました。 もう、どこへ逃げても同じでございましょう」 侍は、ふぅと息を吐いた。 「そんな話、このご時勢だ。ごろごろしている。聞き飽きておる。 それにしても、ばば、いや、そなたは何だか品がある。出自は聞くまい。 しかし・・・よし、分かった。その子を私に預けてはいかがか? 私とて、明日の決戦で守りぬける自信はないが、 縁者の助けもなく、母子で逃げても 確かにの垂れ死ぬ算段は目に見えておる。いかがか?」 「なぜ、見知らぬお方が私たち親子を助けるのです?」 「・・オレには、弟がおってな。正確には、おった。 オレは、我が身を守る為だけに、その幼い弟、母を同じくする弟を切った。 実のところ、最初はこの家に人があらば殺し、我が宿とするつもりでおった。 しかし、おまえの、ガキの顔をみて、気が変わった。 名は?」 「犬治朗と申します。今年、6歳になりました」 「よし、分かった。犬治朗。お前は今日で母と別れろ。 お前はオレの養子になれ。 生き残れ。お前の母の分も、オレの弟の分も」 「嫌だ!」     
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