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朝礼が終わり、俺達はぞろぞろと教室へとアリのように歩き始めた。
「うっ」
強く肩をたたかれ、振り向くと幼馴染のトキが
切れ長の細い目をさらに細めてにやっと笑っていた。
「よーよー。
お前、今日 、 香水かなんかつけてんの?お洒落男になっちゃってんの?」
トキは背が高い(悔しい)
ぼくは、トキを見上げた。
「ぼく、何にもつけてないけど」
「え?そう?さっきから、甘くていい匂いすんだけど。女の子みたいな」
「つけてないし」
トキの眼鏡の奥の切れ長の目が、おや?というように見開かれた。
「ま、リュウキはそんなタイプじゃないか」
ぼくは驚いた。
甘い匂い?ナナのことか?
こいつ、もしかしてナナのこと見えんのか?
「トキ」
「ん?」
「あのさー・・」
(女の子見える?)
それとも・・何て切り出そうかと、
言葉を選んでいたぼくに
トキは雪が融けるようにふわぁと笑った。
「母ちゃんに、線香でもあげてきたんだろ?
俺も、その香り知ってるよ。白檀。今日は、富士山大震災の日だもんな。
俺も、家族全員に、祈ってきた」
「・・・・」
ぼくは、すっかりナナのことを聞くことを忘れてしまった。
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