分倍河原へ

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「トキ・・・トキ・・・」 ぼくはトキの方を揺さぶった。 ぼくが指差す方向に、 一本のケヤキの木があった。 「・・・ああ・・」 トキは、膝で歩いてケヤキまでにじり寄ると、 大声を上げて泣いた。 天をあおいで。 「トキ。ぼくらは、『今』生きているんだよ」 ぼくも、そっとケヤキの木の肌に触れた。 「だから、一緒に『今』生きよう。場所が離れようが、 肉体から離れようが、ぼくたちは、みんな、いつも一緒だって、 もう、分かったから。『今』ここに。いる。それだけで、嬉しいから」 ナナの光が極限までまぶしくなった。 目が開けていられなくなって、ぼくたちは、手で顔を覆った。 (また、会おうね。どこかで) その声は、ぼくのお母さんなのか、ナナなのか、 荘厳な音の塊となって僕に届いた。 (生まれ変わっても、会えるしるし。バースマークって、言うの) ぼくは、あざを思い浮かべた。 きっと、誰しもが身体や心の中に、あるんだろう。 その「しるし」が。 「トキ・・・」 「ん・・?」 「帰ろう。ぼくらの、今の人生に。そして、やりたいこと、大切なこと、 大事な人に、大事だって、伝えるために、帰ろう」 トキは、ゆっくりと立ち上がった。 「ああ」 「うん」 「ひとまず。オレは、リュウキと友達になれて、良かった。 今、こうやって、リュウキと話すことができて、良かった。 ありがとう」 多摩川の向こうに、形の変ってしまった、 それでも美しい富士山が、西日で赤くなっていた。
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