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「不幸選手権」
「不幸選手権したってさ、仕方ないと思ったんだ」
トキとぼくは、慰霊祭の行われている東遊園ではなく
布引の滝へと歩いていた。
トキは、トキの従兄弟の家に住んでいる。
ぼくは、父さんと一緒に富士山地震の後に神戸に引っ越してきた。
ぼくとトキは、東京にいたころからの幼馴染で、
トキのおばさんも、ちょっと無口なおじさんも、
やたらと明るくて早口で喋る3才年上のお姉さんも知ってた。
たまたま、トキの従兄弟の家も神戸で、そうしてぼくらは今も一緒にいられる。
これは、とてもラッキーなことだぞ、とぼくは思っている。
ぼくより背が高くて、顔も良くて、
それでいて、こういうドキッとするような言葉が出てくるところも好きだ。
「不幸選手権て?」
坂道で、ぼくは少し息を切らしながら言った。
「スタミナないねぇ~。体操部なのに」
「うるさい。陸上部のお前と一緒にすんな」
トキは眼鏡を外して汗を拭うような仕草をした。
真冬なのに。
「みんな、色々あるだろ。親がいたって、その親にひどい事されてる奴もいる。
家族仲良くても、病気と戦ってる奴もいるし。いじめられてる奴もいるし。
元気でも、寂しい気持ちで毎日過ごしてる奴もいる。金ない奴だっていっぱい」
「分かるけど・・」
「俺、慰霊祭、苦手なんだよ。
勿論、祈ることや儀式や、大きな出来事を後世に伝えていくことは大事だと思う」
ぼくは、なんとなく空を見上げたけど、茂った木々でのせいで、
すき間からしか見えなかった。
どんよりとした冬の空だった。
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