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「だけど、気配は感じる。特に、お前と一緒にいる時な。
あの香り、あれ、俺が仏壇にあげてる線香の香りだからさ。
お前には見えるのかと思ってさ」
ぼくたちは、布引の滝を見ていた。
ここは、ぼくたちの小学校時代の遠足コースだ。
白い竜のような、美しい滝。
ぼくも、トキも、母親の作ったお弁当じゃなかった。
それを、お互いに口に出す事もなかった。
二人の間では、あの災害以来、
いなくなってしまった家族や友だちのことを喋ることはなかったんだ。
今日までは。
そんな、ぼくの気持ちを読み取ったかのように
「10年だからさ、そろそろね」
と、トキは笑った。
トキのお得意の、雪解けの笑顔だ。
「リュウキ、お前は、光の人?とやらと喋れるんだろ?」
当たり前のように、トキは聞いた。
「うん」
当たり前のように、ぼくも答えた。
「その、リュウキと一緒にいる光の人に
俺の家族は幸せかって、聞いてくれないか?」
(幸せだよ。私みたいな未浄化霊じゃなくて
ちゃんと浄化して、宇宙だか神様だかの、
綺麗な世界にシフトして、
リュウキくんを見守ってるよ)
「幸せだってさ。もう、ちゃんと浄化・・うーん。と。レベルあげて
リュウキのこと守ってるって」
ぼくがそう言ったとたん。
トキは体育座りで、膝の間に顔をうずめた。
「・・・だよ」
泣き声のように聞こえたけど、
多分聞き間違いだ。
トキは、お葬式の時も泣かなかった。
ぼくもだけど。
どれくらい、二人でそこに居ただろう。
そろそろ、あたりは暗くなり始めていた。
よしっ!というように、立ち上がったトキは、いつものトキに戻っていた
「お前、ようやく声変わりなのな」
そして、涼しい顔でニヤリと笑ったけど、そのまぶたは少し腫れていた。
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