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それからセバスチャンは魔王様の許可を得て、人里離れた国が所持する山の頂上に家を構え城を出て若様と2人で暮らし始めた。
若様が今まで出来なかった事をなるべく体感させてあげ、若様が知らない事を自分が知る限り教え次第に若様も年相応の感性をもつようになった。
少しづつ人らしさを戻していた若様に弟が産まれたとの連絡を受けた。
「すまんがそれは出来ん。」
弟が産まれたと知った若様は弟に会いに来たのだが、魔王様に会う事を許されなかった。
「会うだけでもダメですか?」
「……すまん。」
セバスチャンがもう一度問うてみたが返事は同じだった。
「もういい。行こうセバスチャン。」
深くフードを被り城を出て行く若様の後をセバスチャンは魔王様に一礼して追いかけた。
若様とセバスチャンの力によって自分達以外は決して山の頂上には辿り着けない道を2人並んで歩く。
そんな2人の耳に何やら赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
お互い顔を見合わせその声がする方へと走って行けば、見事な大きな桜の根元に生後半年ほどの赤子がいた。
おくるみに巻かれ泣いている赤子に若様が手を伸ばせばセバスチャンに止められた。
「いけませんよ。」
若様が触れてしまえば、この赤子は暴走する魔力に耐えきれず木っ端微塵になってしまう。
この子にもうそんな思いをさせたくない。
「別にこのままほって置いてもどうせ死ぬんだ。だったら、俺が今一瞬で殺した方がこいつにとっては楽な方法だろう。」
「ですが若様…」
「…弟をこの手で抱けなかったんだ。」
だからいいだろ?
そう訴えるような目でセバスチャンを見れば彼は少し考え、若様が赤子に触るのを許可した。
責任は自分が全て受け持つ。
ゆっくりと泣き止まぬ赤子に手を伸ばし頬に触れると赤子は泣き止み、若様の指を握った。
ニッコリと笑って若様の指を口にいれ、しゃぶるその姿に若様もセバスチャンも言葉を失った。
「信じられませんな…」
「…温かい。柔らかい。」
ぎゅうと赤子を抱く若様はもう一度セバスチャンにお願いした。
「この子と一緒に暮らしたい。」
それからもう1人新たに家族が加わった。
それは若様が10歳の時だった。
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