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「行かん。」
手紙の内容は今度の弟君様の戴冠式について書かれていた。
一般的に20歳になれば成人扱いされるのだが、王家は15歳になると成人したとみなされ行政に関わる事が増えてくる。
若様も戴冠式こそ本人が絶対にやらないとボイコットして披露しなかったが、15歳から戦場に駆り出され今ではその名を知らない者はいないほど有名になった。
今月の弟君様の誕生日に戴冠式が行われる予定で若様にも参加してほしいとの報せだった。
勿論若様は迷う事なく即答した。
「そう言うだろうと思っていました。」
「そんな事よりもうすぐサクラの誕生日だな!何が欲しい?」
国の一大イベントをそんな事で片付けた若様は話しをサクラの誕生日にすり替えた。
サクラは若様とセバスチャンに拾われた為、正式な誕生日は分からないので、出会ったその日をサクラの誕生日にした。
そう、弟に会いに行った日だ。
「……若様、本当に行かなくてもよろしいのですか?」
言い難いがサクラは意を決して若様に弟君様に会わなくてもいいのかと聞いた。
「私には…血の繋がった家族がどこにいるのか、生きているのか死んでいるのかわかりませんが、折角若様にはちゃんと血の繋がった家族がいるのですから仲違いしたままだなんて、なんだか悲しいです。」
「血の繋がりなんて大した事ない。実際一度も会いに来ないではないか。」
「ですが…」
「くどい。この話はもう終わりだ。」
ソファーから立ち上がると若様は自分の部屋へと入って行った。
姿が見えなくなるまで若様の後ろ姿を見ていたサクラはドアが閉まるとセバスチャンに向き直る。
「ごめんなさい。余計なことしました。」
「謝る事はありませんよ。サクラの気持ちもわかりますから。ですが、若様の気持ちもわかりますので今回は中々難しいようですね。」
泣きそうなサクラの頭を優しく撫でれば、我慢できなくなったサクラはセバスチャンの胸を借りて密かに泣いた。
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