夢見る無給の研究員

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僕はある理由で、大学を半年休学して留年していた。僕は休学している間、「ファインマン」の書いた教科書、「ファインマン物理学」をずっと独学で勉強していた。元々は英語の本だが、日本語に翻訳されていて、日本語版は5巻出ている。僕は特に第5巻の量子力学編が好きだった。そのとき僕は、中性K中間子の章を読んでいた。「中性K中間子」の基本状態には「中性K中間子」と「反中性K中間子」があり、基底状態は「中性K中間子」と「反中性K中間子」の重ね合わせで表されると言う話だ。基本状態とは我々が観察する状態で、基底状態というのは一番エネルギーが低い状態だ。一番エネルギーが低い状態、つまり一番楽な状態は、我々が観察する基本状態の重ね合わせであると言うことである。これは時間が経つと観測される基本状態が入れ替わることを意味する。僕はこれをニュートリノに置き換えてみた。ニュートリノには三種類あるが最初の二種類を考えてみた。 それは「 電子ニュートリノ」と「ミューニュートリノ」だ。「電子ニュートリノ」と「ミューニュートリノ」は基本状態で、一番楽な基底状態だと「電子ニュートリノ」と「ミューニュートリノ」の重ね合わせだ。この状態だとニュートリノの状態は「電子ニュートリノ」と「ミューニュートリノ」の間で入れ替わる。僕は、これはいわゆるニュートリノ振動と呼ばれる状態ではないかと気づいた。この状態になるためにはニュートリノが質量を持っていなければならない。このニュートリノ振動が観測されれば「電子ニュートリノ」と「ミューニュートリノ」は質量を持っていることになる。ニュートリノが質量を持っているかどうかは当時はまだわかっていなかった。このとき僕はニュートリノ振動の理論を理解したと思った。もう誰かが気づいていたのかもしれないが、今まで誰もこんな話をしたことがない。もしかしたら僕が最初に気づいたのかもしれない、とも思った。いずれにせよ、 僕はこのニュートリノ振動の話を、こっそり例の彼女にしたのだった。(例の彼女については拙著「ある公園にて」を参照してほしい。)     
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