なりすましのヘイト

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 聞いてもないのにそういうと、五反田は女たちに目を向けながら集合ポストに向かった。それで自分が何をしに来たのか思い出した。五反田の背中を追って女たちの脇を通ると、手紙という言葉が聞こえた。頭がどうかしているという声もした。何のことだろうと思いつつ、ポストのダイヤルに手を伸ばす。誰かが後ろを通る気配がした。私たちにつられたのか皆実が自分のポストに向かっていた。隣では、五反田が投函口から短く突き出た新聞を押しこみ、ダイヤルを捻っている。五反田が新聞と、その上に重なった薄茶色の封筒を取り出すのを横目に見ながら、なるほど、ああすれば郵便物の取り残しがないなとつまらないことに感心した。  私はダイヤルを回し、鍵を外した。本はなかった。代わりのように茶色の封筒が入っている。妙に平べったかった。重しで長時間プレスされていたような封筒で、表には「小学生のあなたに、とっておきのプレゼントです」と印刷されたシールが貼ってある。裏書きはなく、ノリづけもされてない。中身はA4の用紙を三つ折りにしてある、手書き文字のコピーだった。  軽く目を通した。言葉で頬を張られたようなショックを受けた。周囲のざわめきが遠くなる。 「日本は、日本人のものだ。  それなのに、今の大人たちは自虐史観という毒を注がれ続け、日本は悪いことをしたのだと洗脳されてしまった。  日本は悪だという危険思想を、心に埋め込まれてしまった。  だが、生活保護を受けているのは朝鮮人が圧倒的に多く、刑務所収容外国人となるとそのほとんどが朝鮮人だ。朝鮮学校は反日組織であり、無償化反対は差別ではない。朝鮮人は、日本が嫌いなら出て行けばいい。 『良い朝鮮人も、悪い朝鮮人も、殺せ』は正論だ。 『日本は、日本人のものだ』は正しい。  普通の日本人ならそれがわかる。そのことを、あなたがた未来の日本を担う子どもたちに、知っていて欲しい。  日本の未来を憂う、普通の日本人より」  臭い泥の中で溺れたような気分だった。口の中や喉に泥がこびりついて、いつまでも匂う。全ての漢字にルビが振ってあるのが悪い冗談のように思えた。筆跡を隠すためか、どの文字も定規を当てたような几帳面な直線で構成されている。生きている死人を文字で表現したような不気味な印象は、時間が経つにつれ、怖いという感情に変化した。単純に、こんな手紙を書く人間がいることが怖かった。
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