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今回、理事会と自治会の対応は早かった。今年度の理事である五反田の主導が大きかったと母から聞いた。五反田は手紙を発見したあと、すぐに役員の部屋を回り、午後三時の時点でマンションの住民集会開催を決定した。なんらかの対応策が発表されるだろうと期待し、母と共に私も参加することにした。
待望の《彼》の本は午後二時に届いたが、すでに読む気分ではなかった。
集会所はマンションの向かいにある公園と隣接した、四角いコンクリート造りの建物で、一階の会場にはパイプ椅子が並べられていた。マンションは各階七部屋の八階建てだが、椅子は横が十二列、縦が二十列並んでいた。それでも開始時刻の午後八時にはそのほとんどが埋まっていた。
だが、集会が始まっても、委員の口から警察の捜査について説明はなかった。代わりに、手紙を見つけたときの状況を話すように言われ、八階の住民からスタートした。どうして警察について説明がないのか理解できなかった。他にもそう思っている人は多かったのか、あちこちで不服そうな囁きが聞こえた。あかりの質問は、その場の空気を代弁したものだった。
五反田が落ち着いた声で説明した。
「警察に相談したところ、こういうケースには対応できないと言われましてね」
「だって」あかりが食い下がった。「こんなの明らかに脅迫じゃないですか。おかしいですよ」
「それが脅迫や名誉棄損は個人や法人に対してのもので、民族全般に対しての法律はないんだそうです。いや、私もね、かなり粘ったんですが、どうにもなりませんで。では、あかりさんが手紙を発見したのはいつですか」
あかりが夕方の五時くらいですと答えた。マイクが母に手渡され、私がマイクを持った。午前零時に封筒はなかったこと、五反田と会ったこと、七時に降りて行って手紙を発見したことなどを話した。五反田が補足説明し、私は次の住民にマイクを渡した。マイクのリレーが十五分も繰り返されると、ある程度の事情が見えてきた。
昨夜、零時より後に帰宅したのは二人だった。502号室の高橋英吾という二十代の男と、604号室の金原玲子という女性だった。金原玲子は、集合ポストの前で見かけた、あの母親だった。彼女は一人だった。かちっとした印象の紺のパンツスーツを着ていて、毅然とした口調で五反田の質問に答えた。
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