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それは元旦の事、俺こと松野優馬は自宅アパートの前で震えていた。年賀状の束を持って……。
「あら優馬ちゃん、あけましておめでとう。どうしたの?こんなところで震えて。寒いなら中へ入った方がいいんじゃないかい?」
隣の部屋に住むおばちゃんが声をかけてきた。
「あけましておめでとうございます。そ、そうですね……あはは……。ではまた」
我ながらよく分からない挨拶をして逃げるように部屋に入った。
あったかいこたつに入って深呼吸をすると、年賀状をまとめている輪ゴムを取って1枚1枚確認し始める。
「これは郵便局からでこれは実家だろ?んでこれとこれと……あとこれも友達からだな。んで……」
残り1枚の年賀状。俺がさっき震えていた理由だ……。
ゆっくり送り主の名前を見る。
[篠田 千鶴]
篠田の隣に(松野)と書いてあるから恐ろしい。
この篠田千鶴とは1年前に付き合っていた彼女だ。見た目は背が低く童顔で可愛らしい顔、性格は少しおっちょこちょいなところがあるがとても優しかった。
そしてメンヘラ。当時メンヘラが好きだった俺は彼女こそが理想で、一時は結婚だって考えていた。
では何故別れたのか?
……それは去年のバレンタインの事。千鶴は一生懸命俺にチョコ菓子を作ってくれた。手にたくさんの絆創膏を貼りながら。
馬鹿な俺はその手を見て「チョコ固くて切るの大変だったんだな、俺のために一生懸命やって怪我したんだな。可愛い奴め」くらいにしか思っていなかった。
千鶴が作ったチョコ菓子はどれも美味くて俺は幸せだなんて思いながら馬鹿面下げて馬鹿みたいに食っていた。したらあの女、なんて言ったと思う?
「えへへ、そんなに食べてくれて嬉しいなー。隠し味いーっぱい入れてよかったぁ!千鶴の血がね、入ってるんだよ!」
無邪気な笑顔でサラッと言いやがった。まぁメンヘラだしここまでは予想はしていたっちゃしていた。問題は次だ。
「ちょうど生理もきててね、いっぱいいっぱいいれたの。美味しい?千鶴の一部がゆーくんの一部になるなんて嬉しい!」
この一言を聞いて俺は指を突っ込んだり、水をガブ飲みしたりして何とかおぞましいチョコ菓子共を吐き散らした。
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