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コンビニ店員は、家庭教師をしている清隆みたいに先生と崇められることはない。
けれど、いくつかの職を転々として来た光太郎は思うのだ。
高尚ぶって所詮水商売と似たようなもんだとうそぶいている企業の中身がどれほど尊敬すべきものかだろうかと。
社員で働いてるいADすら使いっ走りにして大学生のアルバイトよりつかえないと陰で愚痴り、企画だけ出して派遣ディレクターに原稿書かせて偉そうにしているテレビ局の内部社員。
客に勉強してねと言われてギリギリの期限と予算で仕事を受けてきて若い社員のアイディアを吸い上げて、生きる力すら吸い上げて社畜化してしまう広告代理店の偉いさん。
多くの人がその職についていながら、ならない方が良い職の上位と言われている保険の営業や土建の事務。
仕事の何が高尚で何が社会に必要とされているのかどうやって判断できるというのだろう。
遅くまで目を充血させて働いても、ありつけるのは、高級レストランや家庭の温かい料理ではなく、深夜に空いているコンビニなのだ。
懸命に働いて懸命に勉強している人が利用しているのが、コンビニだ。コンビニ無くしてその人達の生活は成り立たない。
コンビニを利用しないで済む生活が理想かもしれないが、そんな実現の難しい理想を無為に唱え続けるより、コンビニの質を少しでもよくすることが、日々忙しく暮らしている人々の癒しとなり、世の生産性を向上させると光太郎は考えていた。
その信条で、光太郎は少なくともコンビニ店長をやっていた。
「お前の理想は分かったけどさ、コンビニの焼き鳥の質を向上させるために実際に焼き鳥をコンビニで焼くとか、コンビニで外来種を駆除してそれを展示するとか到底企画として通るとは思えないんだけど。どんだけ、コストかかるんだよ。しかも、それだけのスキルを持った人材をコンビニで雇えるとは思えない」
「-コンビニの屋上に観覧車を作るとか」
「そのコンビニ、何階建てだよ。今日び、大型遊園地だって潰れる時代だ」
大体、お前の考えることはキャンペーンの枠を超えていると言われて、光太郎はノートパソコンのキーボードをカタカタと打っていた手を止めた。
「だったら、お前が考えろよ」
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