657人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
熊野(いや、気働きは奥さんのほうか)が、子連れの2人のために部屋をとってくれていたので、都内ではあったが、秋人達はホテルに1泊して帰ることにした。
今3人は、穏やかな夕暮れの中、ホテルの庭園をノンビリ散歩している。
さっきまでむずがっていた赤ん坊は、燈子の胸の中でようやく眠ったようだ。
秋人がスリングを受けとると、燈子はフウッと一息をつき、トントンと右肩を叩いている。
スリングの中、ふてぶてしい顔つきで眠っている赤ん坊の顔を、秋人はある種、複雑な思いで眺めていた。
ったく。
燈子をはじめ女どもは、コイツのことを『笑った』とか『可愛い』とか騒いでいるが……
コイツ、俺には1度もそんな顔を見せたことがない。
小さな赤い唇に“チュッ”と軽く口付けると、ものすごく嫌そうに顔をしかめる。
フン、ざまあみろ。
テメエの初チュー、俺が奪ってやったぜ。
それを愛情表現だと勘違いしたのか、見ていた燈子が嬉しそうに笑った。
「ヘヘ…何だか秋人サンは…変わりましたね」
「何が?」
「そういうの、“格好悪いから” って、絶対やらないヒトかと思ってました。
結構サマになってますよ?」
「な……」
何だか照れ臭い。からかうように見上げた顔に、平静を装って言い返した。
「当たり前。デキる男は何をやってもキマるんだ」
「あー、…ハイハイ。
あ、見てみて!キレイなお花。
何ですかね、アレ」
最初のコメントを投稿しよう!