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こんな弟でごめんなさい!
「うわっ、やばい」
駅の改札口を出た直後、腕時計を見た安藤郁は思わず呟いた。
時刻は夜の七時半をまわろうとしている。もっと早く帰れるつもりだったのに、大学の授業が延びに延び、こんな時間になってしまった。
「あいつ、腹空かせて待っているだろうな」
家で待つ弟のことを思い出し、郁は走り始めた。
駅から徒歩十五分のところに建つマンションに安藤家はある。エレベーターから降り、息せき切って家の中に駆け込む。
「ただいまッ。悪い、遅くなった」
「お帰り、いっちゃん」
リビングと続きになっているキッチンには、ブレザーの制服にエプロンをつけた恰好で、弟の潤也が立っていた。
ほりの深い顔立ちに、切れ長の瞳。すらりとした体躯は均整がとれ、モデルと間違われることもある。近所でも評判の美男子だ。
さらには、都内有数の進学校に通うほどの優秀さとたいていのスポーツは何でもこなす運動神経のよさを兼ね備えている。
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