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ユーリイの元に届けられた報告は二つ。
一つ目は例の毘首の作り出した人間兵器が暴走し、【明日良】の本拠地を半壊させた事。
急ぎ張り込ませていた者に、ルクセンブルク皇女と【明日良】の二人の生死を調べさせた。
すると皇女は既に屋敷を出て東京へと向かっており不在。
更に【明日良 計都】と【明日良 吉祥】の生存も確認された。
この三人は計画の肝であり、死なれては全てが台無しであった。
ユーリイは自室で一人冷や汗を掻きながら、自分を落ち着かせる為にワインを一気に呷った。
更にもう一つの知らせは吉報であった。
どうやらアメリカ陸軍特殊部隊【グリーンベレー】が横須賀米軍基地に駐留しているとの事。
本来ロシアとアメリカは犬猿の仲であり、そうそう相容れぬ関係性ではあったが……ユーリイは財界人であり、闇の商人であった。
作戦に完璧を期す為、ユーリイはアメリカ陸軍を通さず、密かに信頼出来る人物を送り込み接触を図った。
……隊員一人につき、一生遊んで暮らせる金を確約するという条件を携えさせて。
これで少なくとも皇女の身柄は確保出来た。
皇女と共に東京に向かったらしい【明日良 羅喉】も現役最高峰の部隊には敵う筈も無い。
その後は、非戦闘系である【明日良】の二人を包囲すれば良いだけ。
完璧なまでの予想図を描くと、一両日中張り詰めていた肩の力を抜き、一度頭をクリアにしようと目を瞑ったユーリイ。
そのまま5分後には眠りに落ちたのだったが…………突然鳴り響いた部下からの電話に起こされることとなる。
『何だ!?』
不機嫌に声を荒げたユーリイであったが……その後の耳を疑う部下からの報告にユーリイは声を失った。
東京に皇女と向かった筈の【明日良 羅喉】が京都の屋敷に突如として現れた、と。
そして別の者の報告によれば、それから二時間もしない内にまた東京に現れた、と。
それは車でも新幹線でも無理な移動時間での中の出来事。
ヘリか小型ジェット機でも使えば可能だろうが……奴が何かに乗って来た様子は無い。
そしてそれから数十分後に来た連絡で、ユーリイの体中から動揺の汗が噴き出した。
『…………報告致します。……傭兵部隊及び【グリーンベレー】は…………全滅致しました』
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