1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
2月13日
pm7:03
ワンルームの俺の部屋は、甘ったるいチョコレートの匂いで満たされてる。
あいつが、彼氏にバレンタインのチョコレートを作ってて…なかなかうまく出来ないらしく、苦戦中だ。
作り始めてかれこれ4時間以上たってる。
「わー!もう7時過ぎちゃった!でもあと少しで完成するから!遅くなってホントごめん!」
彼氏へのチョコを他の男の部屋で作るってどうなんだ。そんなチョコもらって彼氏は嬉しいか?
そもそも買い物にも時間かけ過ぎて作り始めるの遅くなってさ。
で、こんな時間まで男の部屋にいてさ、作るチョコってどうよ?
まぁ事情知ってるから仕方なくキッチン貸したんだけど。
なんだかなー。
着てる服、地味だけどリボンとかついててちょっとかわいいんだよな。
髪だってアップにしてうなじ見えてるし、ほっぺにチョコ付いてるし、なんかあざといんだよ…
「できたー!!」
っ!?
びっくりしたぁ…見てたの気づかれてないよな?
やっと出来たのか。はいはい良かったね。
嬉しそうな顔しちゃって。でもちょっと不安そうな顔もしてんな。
確かに形は歪だけどさ。食っちまえば関係ねぇし自信持てって。さてと、
「暗いから駅まで送ってくよ」
はぁーあ。紳士的すぎねぇか、俺。
あいつと2人っきりになれるなら…なぁんて下心もあってキッチン貸したけど、断りゃ良かったな。
いや、何かするつもりだった訳じゃねぇけどさ。全く何もないっつーのも…情けないよなぁ。
「あ、ねぇ!はい、コレ。今日キッチン貸してくれたお礼に、1日早いけどバレンタインのチョコ!市販のだから味は保証するよ~」
えっ。おー…マジか?
つーか、
「キッチン借りた代としては安いんじゃね?うそうそ、サンキュ!」
正直、憎まれ口たたくのが精一杯だな。
はは…あー複雑…。もちろん嬉しい、けど、俺は…そっちの歪な……
たぶん、こうやって行動できるヤツが人の心を掴んでくんだな。
良くも悪くも、すげぇ心かき乱されてる。
俺だって今日、何かするつもりでいれば。あいつの心がちょっとだけ動くような何かができていれば。
何もしないから、いつまで経ってもあいつは俺を見てくれないんだ。
打ちのめされた今日はまだ2月13日。
バレンタインを嫌いになるには早過ぎるよな。
最初のコメントを投稿しよう!