二民族

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 砂漠を数週間走り続けて、街にたどり着いた時には、車は砂だらけだった。おかげで、入管で浄砂ユニットに回されて、街に入るまでに数時間かかった。浄砂ユニットに専用駐車場が併設していたのは助かった。どうやらこの国は、かなり都市機構の発達した文明らしい。時刻は夜明け前だった。  街に入ると、とりあえずはちょうどいいバーを探した。ちょうどまだ閉店前の店もありそうだし、土地の文化や習慣について第一情報を得るには、一番手っ取り早い場所だ。たまに美人局に引っかけようとしてくるような輩もいるけれど、それもまた旅の醍醐味であるし、うまくすれば男の楽しみにもありつける。 「それじゃあんたは、イジャでもノハンでもないのか」  バーの主人は、驚いたようにそう言った。主人は、私と同じような人間の姿をしていて、口から言葉を話すので安心した。違いは、少し肌の色がオレンジがかっているくらいだ。この前に行った国では、人々は泥のかたまりのような姿で、極めて高度な情報交換を脳波で行うため、通訳機を使っても意思疎通が難しかった。 「それはこのあたり民族の名前かい?」  私は聞き返した。 「民族?」 「もしくは種族? 姿かたちが違ったりするのかな」  七〇〇年ほど前に世界文明解体が決定し、かつては一つになりかけていたこの星の文明がばらばらになってから、私たちは自分の国の外にどんな人々がいるのか、ほとんど把握できなくなった。それまでに発達した情報技術は同じ文明内でのみ使われ、私のような変わり者の旅人が歩き回ることでしか、他の文明を知るすべはない。 「見た目ではほとんど違いはないさ。でも、街を歩いていて会うのはだいたいイジャだと思うよ。ノハンはあまりノハンの村から出ないんだ。街で働いているのはほとんどイジャだ」  つまり、主人もイジャということだ。
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