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「街に住んでいるのはイジャで、村に住んでいるのがノハンなのか?」
「いや、イジャも夜はノハンの村で寝るんだよ。街は仕事や商売をやるところさ」
「ノハンの人々は何をして生計を立てているんだい」
「ノハンはイジャが養っているのさ。イジャが働いて稼いだ金で食って、昼間はただ家にいるんだよ」
「ではノハンという人たちは、貴族のような立場なのかな?」
私がそう言うと、主人は吹き出した。
「貴族! たしかにその通りだ。昔はイジャを尊敬するいいノハンも多かったんだけれど、最近では生意気になって、イジャをこき使うばっかりだよ」
「生意気?」
どうやらイジャとノハンの間には微妙な力関係が存在しているようだけれど、この主人の口ぶりだと、どちらが上の立場なのかつかみきれない。
私が「ノハンにも会ってみたい」と言うと、主人は思案する顔になった。怪しまれているのかもしれないと思い、目的を伝える。
「物書きなんだ。いろんな街を旅して、その土地を紹介する旅行記を書くと、私の国ではけっこう売れるのさ」
そういうことなら、と、主人はノハンの村を教えてくれた。
「あんたがイジャなら案内するところもあるんだけど、どちらでもないと言うしなあ」
バーの主人はなにやら残念がっていた。
ノハンの村は、中心街から電車を乗り継いで四〇分くらいの場所にあるという。今から行けば、ちょうど昼頃に村に到着することになる。村で何か食べ物を調達できるだろうか。
駅まで歩く道すがら、私は街の人々の視線にいたたまれない気持ちになった。街行く人々は皆、男も女も黒か紺色のスーツか詰襟の軍服に似た恰好をしている。女性たちもスカートははかず、パンツ姿だ。接客業の制服なども、だいたいそれに準じた服装のようだった。私はピンクと黒のバイカラーのウィンドブレーカーなどを着ていて、街ではずいぶん浮いていた。
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