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乗り換えで迷って駅員に尋ねた時も、中年女性の駅員は、うさんくさげに私の恰好を上から下まで眺めて、こう言った。
「ノハンの村に行きたいなら、あそこにいるノハンについて行ったらどうだい」
駅員はホームに立つ一人の青年を指差した。
「あの人がノハンなんですか? 見た目では区別がつかないと聞きましたが」
「はあ? イジャはあんな恰好はしないだろう」
なるほど、青年は赤のすとんとしたワンピースをまとっていた。着心地の良さそうな素材だ。様々な土地を旅して歩いていると、男性の民族衣装にもああいう形のワンピースは多いので、私にとってあまり違和感はない。しかし、黒と紺のフォーマルばかりの人々の中では、その姿は一点だけ色がついたように目立っていた。
と、その時彼の服の裾を、通りすがりの誰かの傘が引っかけた。偶然かと思ったが、傘を持つイジャの男は、振り返りもせずに、裾を引っかけたまま歩いていく。故意だ、とその時気づいた。ノハンの青年は、引っかかっているところを外そうと頑張っていたけれど、上手く外せないまま足を滑らせ、地面に引き倒された。
「あっ」
私は思わず声を上げて、駆け寄った。その背後で駅員が面倒くさそうに、
「ノハンがこんなところに一人で出てくるから」
とつぶやくのが聞こえた。
「大丈夫かい、君」
駆け寄って助け起こす。そばにいたイジャの男女も一緒に助けてくれたけれど、ほかの人々は何事もなかったように目をそらしていた。
「ありがとうございます」
立ち上がった青年は、私とほかの二人に丁寧に頭を下げた。幸い怪我はなかった。電車がやってきて、彼と、助けてくれたイジャの男性と一緒に乗り込む。もう一人の女性は反対路線のようだった。
「私は外国人でこの国のことは何も知らないのですが、イジャの人々とノハンの人々は対立しているのですか?」
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