二民族

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 ノハンの村はこじんまりとした戸建ての住宅が並ぶだけの、これといって特徴のない村だった。けれど、家々の花壇や、窓辺に飾られているこまごましたインテリアがかわいらしく、なかなか居心地の良いところだ。  セイは村長にあたる人に連絡してくれて、村の集会所のような場所で彼女に会うことができた。村長は五〇代くらいの大らかな感じがする太った女性だった。セイと同じようなベージュピンクのワンピースにエプロンをつけている。 「私たちの村に外国の方が来てくれるなんて、これまでに一度もありませんよ!」  私が昼食をまだとっていないと聞くと、彼女は村人たちに呼びかけ、広場でバーベキューを開いてくれた。さまざまな年齢のノハンの人々が集まったが、皆同じようなワンピース姿だ。子どもたちも何人か来て、外国人の珍しさにはしゃいでたくさん遊びに付き合わされた。私のようなうさんくさい独身男はふつうあまり子どもに人気がないタイプなので、こういうことは珍しく、なかなか楽しい体験だった。 肉や野菜の調理方法は私の文化ともさほど変わらず、とてもうまかった。村人たちは老若男女、皆料理は手馴れているし、驚くほど準備や片づけの手際が良い。村のみんなでレストランでもやっているのかと思うほどだけれど、私がそう言うと、どっと笑いが起こった。  村人たちは自分の家からも惣菜のような料理を持ち寄ってきてくれた。そちらは私には少し薄味のものが多かったけれど、変わった郷土料理を食べられたのはうれしかった。 しかし、中でも絶品だったのは最後に残った食材をあつめてセイが作ったスープだ。余り物で作ったとは思えない、素材の旨味が絶妙に調和した、心に染み入るような味だった。 「君は料理人になったらいいんじゃないか」  私がそう言うと、セイは恥ずかしそうにうつむいた。 「そうですね……この年になって決まったイジャもいないですし、働くことも考えなければいけないですよね」
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