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◇
それは、高校生活最後の大会。
競技場はたくさんの人々で埋め尽くされていた。
もっとも、純粋な観客と言える人はほとんどなく、
各校の出番を待つ選手、すでに出番を終えた選手、
あとは実業団のスカウトが9割を締め、
残りは選手の家族ぐらいだ。
間もなく始まる短距離に出場する俺は、
自分の出番を待ちながら観客席をぐるりと見渡す。
まばらだった観客席の人はいつの間にか
空席のほうが少なくなっていた。
それは短距離の後に行われる中距離の為に集まった観客たち。
つまり、隆一を見に来た人々だ。
ーーこれから走るのは短距離なのに。
ゼッケン番号を呼ばれ、俺はスターティングブロックの前に立った。
ちょうどそれと同じ頃、アップのために隆一がフィールドに現れる。
すると観客席がにわかに色めき立つ。
ーーうるさいな……。
本来スタート前は私語を慎むものだが、
隆一を見に来た観客は短距離走など気にも留めない。
そして、最悪のコンディションの中、号砲は鳴り響いた。
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