3人が本棚に入れています
本棚に追加
「よっ!あったか、康介?」
背後からかけられた突然の声に驚いた俺は
すぐさまそのチョコを口に放り込んで胃に流し込む。
誰かに見られて誂われるのは性に合わない。
振り返るとそこには、同じ陸上部の隆一が立っていた。
「あったか、って何が?」
俺はとぼけたように隆一に聞き返した。
「わかってるくせにー。
今日はバレンタインだろ。」
人の気も知らない隆一の言葉に、俺は自嘲気味に言った。
「ねーよ。だいたい、告白なら校舎裏にでも呼び出せっての。」
立ち上がった俺は、隆一に目線を合わせてると、
改めてイケメンとはこういうものか、と思わざるをえない。
それは三枚目の俺とは違う、すっと鼻筋の通った端正な顔立ち。
顔だけでなく贅肉を落としきった体。
長い足から生み出される広いストライドは、
まさに中・長距離の為に産まれてきたと言っても過言ではない。
そして成績はと言うと学年トップクラス。
ーーああ、天はどうして彼に二物、いや多物を与えたのか。
もちとん、そんな彼にとって、バレンタインはポジティブイベントに違いない。
故に、我々一般庶民の劣等感など伺い知ることもないのだ。
だから俺は、下駄箱のチョコのことを隆一には相談したことがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!