第4章 あなたなしでは

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「そうですね。違う世界を持っている…ということですよね。 世界観の差が、会話の行き違いや誤解を生みだしているんですね。私は与えられる役目を担うことに時々猛烈に疲れてしまうのですが、それは相手の世界に私が合わせていて、その間は自分の世界を疎かにしているから、欲求不満や疲労感を感じてしまう…。 私は時々、何のために生まれてきたのか、何の役目で今ここにいるのか、わからなくなります。とても不安で、すごく辛くなってしまう時があります」 小澤さんは微笑んだまま、うんうんと頷いて聞いてくれた。 なんて心地よい人だろうと改めて感じていると、小澤さんは丁寧な口調で応えてくれた。 「自分の世界を満たすことができるのは、自分だけしかいませんからね。 目の前にいる相手が私の心を満たすことなどは限りなく不可能に近いんです。 心が空っぽになって不安なとき、カサカサに乾いて苦しいとき、じめじめと湿っぽくて落ち込んでいるとき、それとは真逆でうきうきと心が躍り出しそうなとき、どんな感情を味わっているかを受け止めることでしか、自分の世界を満たすことはできないと私は思います。その上で、自分を表現し伝えることができれば良い。一人ひとりが自分を満たすことができれば、力を奪い合うこともなくなると思うんです」 「…力を奪い合う?」 私はいつか心を痛めた永遠の課題を、小澤さんが口にしたことに感動していた。 私と同じように感じて、考えている人がいるのだと思ったら嬉しくて飛びつきたい気分になった。それを我慢しながら、小澤さんの心地よい声でその先をもっと聞きたいと思った。 「はい。病にかかるひとは、力を奪われた人なんだと私は考えております。 力を奪われやすい人は、自然の摂理にさえも鈍感であなたと私の間に境界線がありません。目の前の人が怒っていれば、自分のせいだと責任を感じますし、泣いていれば自分が泣き止ませなければいけないと勘違いしてしまいます。そうしたお人好しから沢山力を奪うことで生きていると実感する人もまた、勘違いしていると私は思うわけですよ」
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