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軽トラックに乗って、苫小牧から日高線を辿って帰路に着くと、ちょうど夕日が海に沈むのが見えた。
オレンジ色の光に染まる雲を眺めながら、夏鈴はため息をこぼした。
「祈っててやろうか?」
「なにが?」
「彼がお前のところに帰ってくると」
「え?」
こっちを向いた夏鈴の目はキラキラと輝いていた。
「大丈夫だよ。夏鈴。
彼はきっと人生に必要な経験を積むために旅をしているだけだ。
いつか必ずお前のところに帰ってくる」
「なに、それ」
寂しそうだけど嬉しそうに、夏鈴は自分の膝を抱き寄せて膝に顎を乗せた。
野々花から美鈴へ、美鈴から夏鈴へ。
俺は三人の女達によって癒され続けてきたと思う。
自分の出生を知ってから何度も逡巡したが、辿り着く答えはいつも決まっていた。
「生まれてきてはいけない子供などいない」
野々花が俺に言ってくれた言葉が一番しっくりと納得がいく。
人殺しの償いも必要ないと彼女は言い切った。
だけど俺はこの秘密を墓の中まで持っていくことに決めていた。
残された家族にとって俺が人殺しである事実は良いことはひとつもない。
どんな理由であろうと人の人生を奪った事実を忘れてはいけない。
彼らを忘れることは、彼らの死を冒涜することになる。
母親のいない俺にとって女の子は未知なる生き物だったが。
ちゃんと一緒に生きて、ちゃんと言葉を交わし、心を通わせたられただろうと思う。
野々花が眠る墓にいると、時々彼女の声が聞こえる気がする。
「黒桜さん」と、その名で俺を呼ぶのは彼女だけだから。
早く会いたいが、夏鈴が心配で。
夏鈴から離れがたくて、夏鈴の子供たちとも、もっと心を通わせたかった。
俺の知らない両親の愛を、彼らが再び歩むと思うとそばで見届けたい気持ちが強くあった。
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