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そんな冷酷非情な連中の目的と言えば、
神様への貢ぎ物、
つまりは生贄を差し出して百年の平和を手に入れることだという。
この地にはかつて神だったはずの化け物が、
百年に一度生きた人間を喰らうという伝説があるらしい。
村人たちは自分の身内から生贄を差し出すことを嫌い、
よそ者である俺を親類から買い取って三年前に連れて来られた。
俺を売った親類は人間じゃない。
俺を化け物の餌にするとわかっていて差し出すのだから、
最早人間じゃない。
ここの連中の誰一人を取っても、人間らしい道徳観念を持つ賢人はいない。
人々がなぜそうまでして化け物と化した神に縋りつくのか。
それは侵略戦争のせいだし、天災が続き食糧難が起きて、
明日生きているのかさえも脅かされているからに他ならない。
けれどそんな理由が、俺をここに留めているわけじゃない。
俺は、自分を迎えに来る死を待っている。
ただ野垂死にするよりも、
どうせなら誰かの役に立つ死に様を選ぼうと思った、それだけだ。
屈強そうな村の衆に抑えつけられて、
腕の自由を奪われて綱に引かれてやってきたのは
奴らの記憶に俺を刻む為だ。
百年に一度の祭事っていうなら、
こいつら全員、次はもう必ずくたばっている。
次の百年後に選ばれる知らない生贄の為に、
俺は消極的な抵抗をして奴らの心に罪悪感を滲み込ませたかった。
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