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15になる俺と同じ年の男、波戸崎千歳がお守りをくれたけど、
そんなもので魔物を除けられるなら、村人全員お守りを身に着ければいい。
気休めだとしてもそれが小さな働きをして、
恐怖心に取り付いた化け物という眉唾物を意識の中から退治すればいい。
本来、お守りとはそういうものを言うのじゃないのか?
長い事、胡坐で座していた俺は睡魔に押し倒されかけていた。
突然、お堂の扉が軋む音がしてビクッと目覚める。
耳障りな木の擦れる音と共に夜露の香りが入ってきた。
小さな人影が入り口から蝋燭の灯りをかざした。
揺れる小さな炎に浮かんだのは、
幼い顔の少女だった。
「黒桜さん」と、鈴のような声で名前を呼ばれ、
それが誰なのかはっきりと確信する。
「逃げましょう」
少女は音もなく駆け寄ってきて、俺の手足を結ぶ紐を解き始めた。
黒い髪を結わえ、まだ前髪がある幼い少女からはにおい袋の花の香りがする。
「黒桜さん!」と、抑えた声で何度も呼ばれ、俺は呆然とした夢うつつの狭間から立ち上がった。
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