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「俺が消えたら村人達は狂うんじゃないのか?」
絶望と怒りによって気が触れた連中が血眼になった姿を想像するだけで、なんだかおもしろかった。
「すでに狂っております。
実在するかどうかさえわからぬ魔物に貢ぎ物として生贄だなんて。
八つの私でもその滑稽さはわかりますよ。
明け方になれば暗殺のために人がここにやって来ると聞いて、
居ても立ってもいられなくなりました」
波戸崎家 長女である野々花は凛々しい顔をして、
俺を縛り付けるもの全てを解きほぐした。
「固い結び目だというのに…」と驚いていると、
「コツさえわかればこの程度のことは、子供の私でも容易くなります」と得意げに笑った。
「黒桜さんの精神力を知らない人は、あなたが狂うて自分が誰かもわからないまま魔物の餌食となるだろうと嘯いておりました。高見澤先生が村人に触れ回ったのでしょう。少しでも罪悪感を薄めるための詭弁ですが、誰かの命と引き換えに得る平和だなんてありもしないもののために心に嘘を吐く方が、生き地獄でしょうに…。こんな悪しき文化は消えて無くなってしまえば良いのです」
野々花は恐ろしいほど賢い子供だった。
まるで大人のような、いや、この狭い山奥の村しか知らない子供とは思えない眼をしている。
「兄様は役立たずですし、父上も母上も目を反らし続けておいでです。
私は失望致しました。どうかこれから、この私と二人で蝦夷地に向かいましょう?
黒桜さんが一緒なら、険しい道のりも心強いと思うんですの」
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