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野々花は、自分諸共逃避行をする決意を固めてやって来たのだ。
まさかの展開に、あらゆる修羅場を潜り抜けてきたさすがの俺でさえも驚いて閉口してしまう。
小さな体には旅立つための荷物が括り付けられ、手足には帷子が装備されていた。
「黒桜さんの着替えは、村を出たところに隠しております。
今はこのまま私について来て下さい。
この日の為に一年をかけて準備をしたのですから、資金の心配もいりません」
「…でも、俺は三日も飲み食いしていない」
生贄になるには身を清め、三日三晩何も食わず、内臓までも清められていた。
そのせいか立ち上がる体力さえ疑わしい。
「わかりました。そういう時のためにお饅頭をくすねて来ましたの。
ほら、これを召し上がれ。でも、水筒は荷物のところに置いてきてしまったの」
野々花の懐から半分潰れた紙に包まれた饅頭が出てきた。
俺はそれを受け取ると、獣のごとく食らいついた。
空腹という感覚はもう無かったが、身体の真ん中に空洞が生まれてどんどん広がっていくような薄ら寒さを感じていたところに、甘い餡子が詰まった饅頭が流し込まれていく。
饅頭は全部で三つあったが、俺は遠慮なくそのすべてを胃に納めた。
「血に力が漲ってくるまで、あと少し時間がかかりそうですが、人が来るかもしれないから急いで抜け道へ行きますよ」
野々花は頼もしくそう言うと、俺の手を引いてお堂の外に連れ出した。
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