序章 帰郷

3/12
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
詩集の間に挟まれた一通の手紙、桜色の便せんからはいつものまゆさんの匂いがした。 ──── 彩へ、泣いてなんかないよ、私は まゆの涙は泣かない涙 そう言ったのは彩香たちじゃない 幸せをつかむまで、もう私は泣かない 一晩中泣きぬれたあの夜にあなた達の前で誓ったのは嘘じゃない そう、私は東京に負けたわけじゃないんだ 美音、雪、彩香、美穂、志津香 そのことを教えてくれたのはあなた達 私はすこし生き急いでいただけなんだよね 私の夢 私の笑顔 それはちょっとの間、みんなに預けておくよ 私が何処にいようと、あなた達が何処で歌っていようと その詩集があなた達の手元にある限り きっと私は戻って来れる 今は笑うことさえ忘れてしまった私だけれど いつか きっと笑って見せる、あなた達のまえで 急ぎすぎたときはもう振り返らない だから自分の脚でしっかりと歩むことを私は選ぶ もうわたしには翼はいらないんだよ、さやか                 まゆ     
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!