9人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生の家、行こう」
先生はおどろいた顔をしたが、すぐににこりとほほ笑んだ。
「さいごまで、しちゃっていいの?」
わたしをためすみたいに、首をかたむけて見せる。
「さいごまでいったら、すずめさんのこと、飽きちゃうかもよ」
「それだって立派な大学生活だもん」
「来月からだけどね」
「行こう」
「仕事が終わってからだけどね」
先生は慣れた様子で身なりを整え、あっという間に先生の顔に戻った。
手すりに置いてあった赤ぶちの眼鏡をかけて、わたしを見おろす。
「放課後、図書館の前に来なさい」
まるで悪い生徒を呼び出すみたいに言った。
図書館は図書館でも、市立の中央図書館のことだ。
はいと返事をして、わたしは乱れた髪と制服を整えた。
最後の先生の、先生らしい口調に、ぞくぞくした。
挑むほうと、挑まれるほうの、立場がひっくり返って、もう一度ひっくり返って、先生の車に乗せられたときはどうなるか分からない。
今夜はきっと帰らないだろう。
わたしをふったあの子に、口裏合わせをしてもらおう。
ひと晩中カラオケしてて、ごめんなさいって。
それくらいしてやったら、わたしの大学生活が、先生と、始まるかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!