いいコと、イケないこと

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「先生の家、行こう」  先生はおどろいた顔をしたが、すぐににこりとほほ笑んだ。 「さいごまで、しちゃっていいの?」  わたしをためすみたいに、首をかたむけて見せる。 「さいごまでいったら、すずめさんのこと、飽きちゃうかもよ」 「それだって立派な大学生活だもん」 「来月からだけどね」 「行こう」 「仕事が終わってからだけどね」  先生は慣れた様子で身なりを整え、あっという間に先生の顔に戻った。  手すりに置いてあった赤ぶちの眼鏡をかけて、わたしを見おろす。 「放課後、図書館の前に来なさい」  まるで悪い生徒を呼び出すみたいに言った。  図書館は図書館でも、市立の中央図書館のことだ。  はいと返事をして、わたしは乱れた髪と制服を整えた。  最後の先生の、先生らしい口調に、ぞくぞくした。  挑むほうと、挑まれるほうの、立場がひっくり返って、もう一度ひっくり返って、先生の車に乗せられたときはどうなるか分からない。  今夜はきっと帰らないだろう。  わたしをふったあの子に、口裏合わせをしてもらおう。  ひと晩中カラオケしてて、ごめんなさいって。  それくらいしてやったら、わたしの大学生活が、先生と、始まるかもしれない。
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