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今日も父ちゃんが家で飲んだくれている。
一間しかない平屋の借家の片隅で、僕は、父ちゃんに背中を向けて宿題をしている。
のんだくれている時の、つまり母ちゃんが出て行ってしまってからは殆どいつも、なんだけど、父ちゃんと目を合わせちゃいけない。
安易に目を合わせると決まってこう言う。
「お前、お年玉どーした?」
僕は答える。
「もう使っちゃったよ。」
すると、父ちゃんは顔を真っ赤にして、ちゃぶ台をひっくり返し、一升瓶を振り回し怒り出す。
「お前!あれほど無駄遣いするな!と言っただろう!?何に使ったんだ!?どうせ碌なことに使っちゃいないんだろう?!ええ?ああ?」
僕は心の中で答える。
「父ちゃんが全部飲み代にしちゃったんじゃないか…」
勿論言葉にしたら、又救急車を呼ばれる羽目になるので言わない。
飛び交う酒瓶、食器を僕は慣れた動作で交わす。
一頻り、物を壊すと父ちゃんは、酒臭い息が僕にかかるほどに顔を近づけ小声で囁く。
「ちょっと位は残ってんだろ?え?父ちゃんが、な?増やしてやるから…」
今度は競馬か競輪?もっと胡散臭い事かもしれない。
僕はそっと目を逸らす。
すると、徐に僕を転がし、ズボンのポケットから財布を奪い、いやらしく背中を丸めて外へ飛び出していく。
だから、僕は父ちゃんに背を向ける。
「ミカ~…ミカ~…どこ行っちゃったんだよう。」
僕が無視していると父ちゃんは勝手に出来上がって、出ていってしまった母ちゃんを忍んで泣き、そして眠る。
僕は父ちゃんをそのままに、ガブさんの家に行く。
父ちゃんはガブさんに頭が上がらない。
ずっと仕事を世話してくれているからだ。
「お前のとうちゃんもな、昔はあんなじゃなかったんだが…時代の流れって奴でなあ、とうちゃんみたいな仕事の人間は生き難くなっているんだよ。そこら辺は解ってやってくれよ、なあ?」
いつもそう言って、僕に夕飯をご馳走してくれる。
それは母ちゃんとガブさんの間の約束事らしかった。
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