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「お疲れ様ー!なんとか乗り切ったよ!売上も好調だし安心したよー。」
店員が高らかに声をかけて来る。当日の夜は人ももう疎らで落ちついている。
「お疲れ様です。いやーよかったですねー。毎年バレンタインデー乗り切れたら一年やっていける気がします。」
冗談まじりに言ったけど、私も心から乗り切れてよかったと思う。明日はお休みだから学校終わったら直帰して溜めてるドラマ見よう。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
やりきった感すごい。我ながら頑張ったな…ご褒美に自販機のミルクティー買おう。寒い時にはやっぱりこれが美味しい。
…あれ。
デパートを出たすぐの横断歩道の前にいる人影。チョコの人だ。手には昨日買っていったうちのチョコがある。
「あの…すみません…。」
思わずチョコの人に声をかけていた。チョコの人はまた少し目を開いて寂しそうに微笑んだ。
「昨日の店員さん…こんばんは。」
チョコの人がぽつりと言葉を溢し始めた。
「チョコ、渡したかったんですけど、渡せなかったんです。僕の特別をあげることが出来なかった。」
あげるはずだったその人はチョコが大好きだそうだ。
「その人はすでに特別な人がいたんです。その人だけの特別をすでにその人は持っていた。」
私は、なんてことをしてしまったんだろう。
「昨日店員さんにお話聞いてもらって、僕とても嬉しかったんです。すごく勇気が出た。本当にありがとう。」
チョコの人はすごく綺麗に微笑んでいた。キラキラしていた。
その瞬間、胸が苦しくなって辛くて、私は泣き出していた。
「えっ、店員さん!?ど、どうしよう…とりあえずハンカチあるから涙拭いてください!ね?」
絶えず溢れてくる涙を必死で止めようとしてくれるチョコの人。
「そうだ、チョコ食べませんか?甘いもの食べたらきっと気持ちも落ち着きますよ!」
私は全力でチョコの人の右肩をしばいた。
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