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「自分は【影】の者だ。【光】の国の人、それも国家に通じる人物にこの気持ちを伝えていいものなのか。そもそも、好意を抱いていいものなのか。このまま関わっていれば、危害が及ぶ可能性だってある。」
悩みに悩んだ。だが、男はそれでも彼女に対して気持ちが抑えられず、気持ちだけ伝えて姿を消そうと試みた。
この恋は叶うはずがない。
せめて、自分が何者で、どんな感情を持っているかだけでも伝えたい。
それだけ出来れば、悔いはない。
そう言い聞かせ、彼女をとある丘の上に呼び出した。
大樹が1本、どすんと植えられたその土地で、男は彼女を待った。
しばらくして彼女がやってきた。彼女は不思議そうに男を見て、こう言う。
「どうしたのですか?こんな所まで呼び出したりして。」
その言葉で、男は覚悟を決め、すべてを話した。
自分は【影】の国のものであること。
【光】の力をも持っている生まれながらの体質により、入国出来たこと。
自分は【影】側のスパイとして送り込まれたこと。
そして、彼女を愛していること。
長い話である上に、彼女を騙していた事を話しているのに、彼女は動じずに男の話を真剣に聞いていた。
男は一通り話をし、自分はもう彼女の前に現れないことを伝えて、その場を離れようとする。
すると彼女は、立ち去ろうとする男を後ろから抱きつき、引き止めた。
「確かに、あなたの話には驚きました。
ですが、あなたがどこの出身の人で、どんな事情でこちら側に来ているかなんて関係ない。
だって、私は知っているんだから。あなたはとても優しい人だということを。
このまま私が何も知らずにあなたと過ごしていると、私が何か危ないことに巻き込まれるんじゃないかって思ったから、話してくれたんでしょう?」
すべてお見通しだった。
驚きを隠せず、ぽかんと立ち尽くした男に、彼女は続けてこういった。
「私の知り合いが、ここから北の方角にある、名前もあまり知られていない小さな村に住んでいるの。
ねぇ、駆け落ちしない?」
悪戯に笑う彼女をみて、男はさらに呆気に取られた。
自分の身に危険が降りかかるかもしれないのに、どうして笑ってくれるんだ、と。
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