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「改めまして、先日は本当にありがとうございました。あの日、助けてもらえなければボクは雪の中で死んでました。凍えるボクを暖め、ミルクをくれて、一緒に寝てくれた」
青年の言う事はあの日のオレと猫しか知らない事。
「確かに君が言ってる事はあの日の夜の事だけど。今の君は人間…みたいだし。恩返しって言われても…」
「なんでもします。炊事、洗濯、掃除。ご希望とあれば夜のお相手も」
「夜の相手って、君、オス…、いや、男だろ?」
オレが夜の相手と言う言葉にビックリして慌ててそう言っても、青年は「そうですよ」と平然としている。
「大体、恩返しってそんな宣言してするもの? もっとこっそりする事じゃない?」
「こっそり…」
「ほら、鶴の恩返しって昔話あるだろ? 絶対に中を覗かないで下さいって」
「あぁ、鶴先輩の事ですか。あれは鶴先輩が恥ずかしがって逃げちゃっただけで、別に見られても逃げる必要はないんですけどね」
「えっ? そうなの?って言うか鶴先輩って…」
「動物から人間になったと言う意味では先輩なんで!
」
自信満々にそう言う青年。
「あのさ、動物ってそんなにすぐに人間になれるものなの?」
「…今の神様ってそうゆうところ、割りとテキトーなんで」
少し考えてから、青年はあっけらかんとオレに言って笑顔を見せた。
その笑顔は美しく、不用意にオレの気持ちを揺さぶった。
『おしかけ女房』男だけれども。
そんな言葉がしっくりくる。
俺たちの共同生活はそうやって始まった。
約束通り作られるおいしいご飯に胃袋をつかまれたオレが、心までつかまれるのは、もう少しあとのお話。
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