起点

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「面白いのか、それ」 本屋らしからぬことを訊くバックに「面白いよ」と答えた。 「絵も上手いし、まず物語がいい。重厚で筋立てもしっかりしてる」 「ふうん。おれはアレが結構お気に入り」 新作だぜ、とバックが指差した先には『アンジェリク・デュ・トロワ』というタイトルのコミックが並べられている。 表紙を見て、ミカエルは露骨に顔をしかめてみせた。 「あんなポルノまがいのコミック、恥ずかしくて手にできないよ」 「絵もアレだし、中身は悪くないぜ。棚から取るのが恥ずかしいんなら、来月号と一緒に取り置きしといてや」 「いらないからね、バッキー」 助平顔のバックに強く断りを入れ、ミカエルは店を出た。 ……エルを狙ったのは何者なんだろう。 第一部で惑星ソナータを離れた、元老マリアモの手先とか……。 夜が更けるにつれ涼しくなってきた町を走って帰宅する間も、頭の中はバッグにしまったコミックのことでいっぱいだ。 そのせいで、目の前のものに気づかなかった。
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