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吐くと同時に言った。俺に向き直り、目を細め、薄く笑う。
「お前だと思って、抱いてる」
「は?」
「心の中で変換してる。俺は、お前を抱いてるんだ」
気持ち悪い? 最低だろ、と酷薄に笑い、呆然とする俺を置いて教室を出て行った。
片耳を、つんざくような大音量。
イヤホンをむしり取る。
まだうるさい。
耳元でドクンドクンと鳴り響くやかましい音の正体が、自分の心臓だと気づく。
体が急激に熱くなる。
男に好きだと言われ、意味がわからず突き放した。
無理だ。
その一言で終わったはずだった。
他の女と手を繋ぐのを見てイラついて、俺を好きだと言ったくせにと内心で責めた。
わからない。自分が何をしたいのか、わからない。
一つだけわかるのは、気持ち悪いのは俺のほうだということ。
女を抱きながら、俺を重ねている。
腹の底から、勝ち誇った笑いが込み上がる。
窓の外。校庭を歩くあいつの後姿が見えた。校門で待ち構えていた女が腕に絡みつく。
「あーあ、可哀想に」
一人ごちる。
あいつが振り向いた。距離はあるが、俺を見たのはわかった。
俺を見ている。
あいつはいつでも、俺を見ている。
〈おわり〉
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