夕餉のひと時

1/1
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ

夕餉のひと時

なぜ孤児の俺の誕生日が分かっているのかというと、 御魂が記憶してくれていたからなのだ。 かといって彼女はお祝いごとに興味があるわけではないらしく、 いつも通りの夕餉を準備して、 俺の言いつけ通り3人分の皿に出来立てのスープを注いで待っていてくれた。 「わあ!いい匂い。お肉だお肉ー!」 令は香ばしい香りに満面の笑顔をして走り出した。 「令、これは泉の食物です。 食したいのであれば泉に敬意をはらって、 彼の後に控えめに席に着くべきです。」 令の無邪気な行動にきつい一言を言う御霊。 御霊は誰に対しても厳しいが、自由奔放な令とは特に馬が合わないようで、 よく言い合いをしている。 「私はもうお祝いしたからいいの。 見てみて御霊!きれいな首輪でしょう?」 令は俺のさげているビイドロの首輪を指さして御霊に自慢をはじめた。 「大量のビイドロを加工されたのですね。 その指の傷はそのためについたものでしょうか。」 御魂に指摘されてはじめて令の指についた無数の傷に気が付いた。 令はきまり悪そうに頬を赤くして答える。 「これはその、ビイドロが意外と硬くて、穴をあけるときにちょっと、ね」 「令は不器用だからな。穴あけは仕方ないからほとんど俺がしたんだよ」 カラカラ笑う功。 俺はビイドロを握りしめる。 これには令と功の思いがつまっているのだと思うと、 胸があたたかくなった。 「皆さま、スープが冷めてしまいます。 お早く席に着き、食してください。 今日は冷えますので、扉もしめてください。」 空気をよめない御魂はバッサリと言い捨てて扉をしめた。 「ですが、本日は泉の生まれた日です。私からも、お祝いを。」 突然の申し出に驚いていると、御霊は家の奥に引っ込み、ガタゴト物音をさせてから 布に包まれたものをもって出てきた。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!