始まりの空

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目を開けるとそこには重々しくくすんだ空。 「青い空、どこでみたんだっけ。」 ぽつりとつぶやく。 「泉(イズミ)、あなたは青空はみたことがありません。 あなたの知っている空はこの空だけです。」 思考を遮るように御魂(ミタマ)にぴしゃりと告げられる。 御魂は幼い頃亡くなったという俺の両親に仕えていた従者人形だ。 従者人形とは、自分で思考し、持ち主に仕える人口知能が備わった絡繰りのことで、 御霊も俺の家に代々仕えてくれているらしい。 「御魂、でも目を閉じると浮かぶんだよ。きれいな青い空」 御魂は無表情で(絡繰りだから仕方ないけど)もう一度きつい口調で告げてきた 「泉、あなたは疲れているのでしょう。寒くなってきました。 家に帰りましょう。 今日は久しぶりに肉を仕入れることが出来ましたので, 栄養価の高いスープを作ることができます。」 「肉か、1か月ぶりだな。 せっかくだし、令(レイ)と功(コウ)にも食わせてやろうか。」 「お言葉ですが、これはあなたの栄養です。 他者に分け与える余裕はありません。 あなたお一人で食べるべきです」 御魂は人工知能をもっているが、感情や心をもっていない。 効率や決められた行動規則に従って動いているだけだから、こういう冷たく聞こえることをよく言うのだ。 「御魂、俺のことを気遣ってくれてありがとうな。 でもこの肉は3人で食べたいんだよ。 令も功もずっと支え合って暮らしてきた孤児仲間だからな。」 俺には御魂という保護者的な存在がいてくれたが、令と功にはそんなもの存在しない。 彼らは正真正銘の天涯孤独の身なのだ。 「了解しました。泉がそうおっしゃるなら従います。」 御魂は無表情のまま答えて、肉を抱えて厨房へ入っていった。 きっとこれから畑でとれた葉野菜や根菜もいれた滋養の高いスープを作ってくれるんだろう。 「さて、俺は令と功のところにいってくるか」
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