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綾「その日、妹は、私の母に杏香を預けて夫を…純也(じゅんや)君て言うんだけれど、一人で迎えに行ったの。 育児をしながら病気の夫を出来る限り世話してたから、疲れていたと思う。寝不足だったかもしれない。 だけど…相手側から、あの時、妹の方がトラック側に向かって来た感じだと言われて。信じられなかった。あり得ないと思った。 だって、妹はとても怖がりだし、慎重な子だったから。体調が悪かったり、まして純也君を乗せた状態で無理をするとは思えなかったの。 だから、必死に調べたわ。 私や警察、保険会社も…双方の、車の不具合や病気、そして目撃者を。 けど、どれだけ調べても分からなかった。 入院したところが…有名な専門医のいる病院を探したら、田舎でね… 事故が起きた辺りは、防犯カメラがないどころか、建物さえない車がギリギリすれ違える程度の狭い坂道のカーブで…どちらも急ブレーキはかけていた。 今みたいにドライブレコーダーもなかったし。どちらが悪いのかも分からなかった。 おまけに相手の方も真面目ないい方でね、嘘をついているようにも感じないし、妹を悪者にするような様子ではなくて…。 それにね、後から知ったんだけれど、その数日前に純也君は余命宣告されていたらしいの。知っていたのは妹だけだった。 だから…だからね、もしかしたら…って言うのもあって…。 本当にね、真実は分からなかった。 結局、最終的には不幸な事故だと無理やり納得するしかなかったの。 ……ううん、納得したかったのかな。 そして、それと同時にね… 私たちには、妹夫婦の忘れ形見である、杏香が居た。 当時は私の母も今の私より若かったから、杏香の面倒をみてくれていたけれど……」 " ここからは俺が話すよ " と、誠一がいい、優しくポンと綾乃の肩に触れた。 誠「当時、俺は綾乃と長く付き合っていてね、プロポーズもしていたんだ。 でも綾乃は…若い頃から婦人科系の病気でね、俺がプロポーズをする少し前に…手術して子供が産めない身体になってしまってて… もちろん、それを知っていたし、俺はそんなこと問題じゃないと思っていたし、そう言ったけど、綾乃は俺が和堂の一人息子だということも知っていたから受けてくれなくてね。 綾乃は頑固だから…このままじゃ絶対に結婚出来ないなと思ってた。 で、両親に生まれて初めてどうしたらいいか真剣に相談したんだけど、あっさりと " お前はどうしたいんだ? それが重要だろ? " って言われてね。 考えて考えて… " 和堂は継がない、栗生の婿養子になる " と決めて、綾乃が気にしてる子供が産めないことを…それなら杏香を娘として一緒に育てたいって言ったんだ。綾乃にではなく、綾乃の前で綾乃の両親にね。2人は泣く泣く喜んでくれて…それを聞いた綾乃は、これはもう断りきれないなって思ったんじゃないかな?(笑) もちろん、綾乃が俺をちゃんと想ってくれているって分かっていたから、そう出来たわけだけど…。」 綾「そうね、こんなに愛されて…これで断ったらバチが当たると思ったわ。」 誠「やっぱりな(笑) まぁ、その後は…家族はあっさりと認めてくれた反面、和堂の上の方は揉めたみたいだし、綾乃もしばらくは勝手な事を言われ放題だったけど、親父が黙らせてくれたらしい。 杏香は…最初から綾乃にそっくりで、可愛くて可愛くてな。本当に夫婦で溺愛して育てたよ。 でも、最初から決めてたんだ。 " 本当の娘として育てる、愛する。その代わりに義務教育が終わったら、事実を伝える。その先は杏香のしたいようにさせる。" ってね。」 .
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