第4章 弥生の過去

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慣れる、ほどの仕事はしていない。 まだコノミ書店で働いて3日め。 一日に店に来る客は、虎之助の想像よりも多かった。 初日に抱いた印象だと日に10人くらいしか来ないのではなんて軽く思っていたが、 実際店に入ってきた客は100人近くに上った。 その全員が本を買っていったわけではないが、売り上げは一万円前後あった。 神楽坂という場所柄か、観光目的っぽい、特に女性が ふらりと入ってくることが圧倒的に多い。 だいたい2人組くらいで、目的を持たずに歩いているらしく、 店の前で古民家を見上げて歓声を上げてから入ってくる。 ガラガラ、と引き戸が音をたてるとさらに笑顔がはちきれる。 昭和の香り漂う空間に、異世界を見るかのように目を輝かせている。 大半の客は狭い店の中で棚に並ぶ本をじっくり見るその合間に虎之助に目を向けて、 そして出ていく。 古民家で営む小さな本屋のレジ前に座っているのが若い男子というのが 意外性があるらしく、店員をも吟味するかのような視線を何度となく浴びた。
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