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「あれは悲しき怪物だ」
「かい、ぶつ……」
「そうだ。毎晩ここで一日に出た物質を食い、自らの栄養源としている。だから政府に物質は溜まらないようになっているんだ」
ただ──
男はユイの目を真っ直ぐ見据え、付け加えた。
「それは結果論であって、重要なのはなぜあのような怪物が生まれたか、だ。そう思うだろう?」
男はユイの答えなど待っていなかった。
「そもそもの始まりは105年前。お前も知っているだろう?『沈黙の日』に生き残った何名かが人工冬眠したことを」
喉がジリジリと痛む。
ユイは頷くことしかできなかった。
「目が覚めた我々は恐ろしかった。眠っていた50年の間に、地球がどのような状態になっているかわからなかったからだ。そもそも目が覚めたこと自体が奇跡だとも感じた」
男は自ら見てきたかのように語り続ける。
「しかし地球は無事だった。爆発は収まり、毒霧が出ていること以外はなんら変わりがなかった。我々は早急に生活の基盤を確立した。まずは生きなければならない。一緒に保存してあった植物の種子を育て飢えを凌いだ。その間に死に絶えた者もいたが、我々の意思は固かった。何としてでも生き延びて、この霧をなくし、元の生活に戻りたかった。幸いシェルターの中の機械は全て使えるようになっていた。科学技術があれば霧の正体を掴めると思っていた」
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