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夢を見た。
何故か夢だと断言出来た。
本丸の自室
誰かが机に向かって何かを書き留めていた。
夢だが悪いと思いつつ背後から覗いて見ると自分と全く
同じ字を書いていた。
ノートには幾多もの涙の跡がある。
何故かはっきり書かれている筈の文字が読めなかった。
読もうとした途端に読めなくなったのだ。
誰かはノートに書き込むのを終えると閉じ引き出しから
小刀を取り出し鞘から抜いた。
それを見た瞬間 ぞっとした。
『俺には元より生きる意味がない
此処に来たのは偶然で彼奴達にとって最初から俺は
主の代わりだ
最初から誰も俺なんて信じてなんて無かったんだ
だから嘘をついて隠して飼い殺すつもりだったんだ』
『主!
お願いだよ!
此処を開けて』
『開けてくれ!
俺達はお前を守りたかったんだ!」
『お願い!
主 此処を開けて!
今度はちゃんと全部 本当の事 話すから!』
『主様!
どうか私達の話を聞いてください!』
『主!
早まってくれるな!
仲間外れにしたのは謝ろう!』
『主!
お願いします!
此処に居るものは誰一人として主を傷付ける為に
嘘をついて隠していた訳ではありません!』
『主はんが怒るんは当然や!
けど話だけは聞いてくれまへんか!
あんたが居なくなったら蛍丸と国俊に泣かれてほんま
困るんですわ!
二人だけやあらへん!
粟田口の短刀達やてそうや!』
『そうです!
私からもお願いします!
どうか此処を開けて話だけでも聞いてください!』
部屋の襖は何故か扉に変わっていた。
部屋の扉の向こうからは幾多もの声が聞こえる。
それはよく知った声も混じっていた。
どの声も身を案じており必死さが伝わってくる。
扉には衝立と閂が内側に嵌められており扉を叩く音が
代わる代わる絶えずしている。
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