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俺は今、恋をしている。
人が自身の身体を改造し、機械と融合した時代。
身体全てを機械化し、肉体を捨て去った者すら少なくはない。
俺は一切の改造をせず、時代に取り残された純粋な人間。
今時珍しいと言っても世界中規模で言うならまだまだ多い、言うなればスクラップ置き場に転がるボルトの様なそんな有り触れた存在。
そんな俺が恋をした。
彼女を一目見た時、俺は思考が完全に停止し、その容姿に見惚れてしまった。
光具合では銀色にも見える真っ白な長い髪。
雪で出来ているのかと思える程に白い肌。
桜の花びらの様な薄桃色の唇。
真っ赤なルビーにも劣らない宝石の様な瞳。
そして今にも掻き消えそうな儚げな表情。
その全てが俺を捉えて放さなかった。
今の時代では珍しくない全身機械の彼女は、最初から機械の身体だった。
その美しさも、その儚さも全ては造られた物だ。
造り物の美しさが良いのか?
否、そうではない。
彼女以外にも最初から機械だった女性は居るが、俺の心は反応しなかった。
勿論改造して美しさを高める人間も居たが、俺には興味が湧かなかった。
今もこうして遠くから彼女を見つめていると、身体の内側を掻き毟るような言い様のない衝動が湧き上がる。
たとえ造られた美しさだとしても、俺の心は唯一無二の彼女を求めて止まない。
なぜ彼女がこうも俺の心を惹き付けるのか?
それは判らない。
単に美しいから惹かれるのか?
儚さやその尊さから焦がれるのか?
それも判らない。
だから俺は彼女に恋をしているのだと思う。
この感情を恋と言っていいものか、些か不安ではあるが。
人に対してこんな気持ちになったのは初めてだ。
壊したいわけでも、汚したいわけでもない、そんな焦がれた感情。
だから俺は彼女に…きっと恋をしているのだろう。
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