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私は思考する。
生まれてからずっと、私の自由は思考する事だけだった。
今もまた人間達の視線に晒されながら、表情を変えずに思考する。
なぜ人間達はこうも私を見に来るのだろうか。
皆、私が造られた物なのは知っている筈だ。
そんな造られた美が、人間達の何を満たすと言うのだろうか?
正直理解できない。
私は今、沢山の人間の前に賞品として晒し続けられている。
しかし賞品として贈られた私にもきっと自由は無い。
今と変わらず人間の視線に晒されながら、思考し続ける事になるだろう。
ああ、また彼が来た。
かれこれ一年程この場に座して晒し者を続けている私を、足繁く見にくる男がいる。
人間はより完璧であろうと肉体を改造し、授かった肉を取り払う狂気の生き物。
そんな時代の中、彼は珍しく全身生身なのだ。
私の様な生まれながらに機械な物を、それこそ毎日の様に見に来る彼を私は理解できない。
勿論何度も見に来る人間は多い、全身生身の人間もちらほらいる。
だが、彼の様に短い間隔で来る人間はいない。
何が彼をそうさせているのだろう?
私の容姿なのだろうか?
それに時折見せる苦しげな…あの表情は何なのだろうか?
そんな遠くからではなく、もっと近くで見れば良いだろうに。
私は人でなく被造物。
感情を持った生き物が機械になった訳ではなく、始めから機械だった。
だからなのだろうか?
人間を理解出来ないのは…。
だからなのだろうか?
彼の苦しげな表情を見ると、胸のあたりが詰まる気がする。
否、詰まるというのは間違っているな、機械なのだから部品が詰まっている。
その部品達が悲鳴をあげている様な、そんな軋みを感じるのだ。
私に感情という物があれば、彼の苦しさを理解できるのだろうか?
彼の表情の意味を汲み取れるのだろうか?
何故多くの人間の中、彼の存在に気付き、こうも気になっているのだろうか?
人間という生き物を理解する事が、機械の私に出来るのだろうか…。
出来る事なら、誰かの物になる前に人間を…、彼を理解できるといいな。
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