第4章 女
全5/7エピソード・完結
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第4章 女

女性は30代くらいだろうか、ラフな白いTシャツとジーンズという格好だった。 肩まで伸びた髪が風になびく。 化粧っ気はなく、細い切れ長な目が印象的だった。 夏らしいひまわりが入った花束を手に持っている。 俺たちをちらりと横目で見、しかしすぐに興味なさそうに目線をそらした。 どう見ても、肝試しで来たもんじゃない。 迷いもなく足を進めているのを見ても、初めて来たわけじゃないのだろう。 俺たちと同じ調査組だろうか?では、花束は? 女は颯爽と俺たちの横を通り過ぎ、まっすぐあんな不気味な旅館へ向かった。 尻込みしていない。 俺は亮介と目を合わせた。亮介も同じことを考えているに違いない。 俺たちは一斉に振り返り、再び旅館へ近づいた。 女は花束を片手に、立ちすくみながらじっと旅館を眺めていた。 俺はその背後から、そっと声をかける。 「あの・・・」 女は気付いているだろう、しかし反応なく無言で持っていた花束を旅館の入り口にそっと置いた。 そしてしゃがんだまま、手を合わせたのだ。 その姿を見て確信する。 小原ユリコの追悼に来ているのだ、と。 見えなかった希望の光がさしたようで、俺たちの表情はぱっと明るくなる。 聡美もほっとしたように笑顔になった。 もしかしたら何か情報がつかめるかもしれない、という希望だ。 女性が手を合わせているのを、無言で待った。追悼の邪魔をするほど野暮じゃあない。 不思議とその女性の姿を見ていると、旅館はどこか不気味さをなくしているように感じた。
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