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シウスは穏やかに微笑んで、そっと頭を撫でてくれる。甘やかすその指先に、ラウルは切ない思いがした。
「辛い思いをさせたなえ」
「いえ…」
「正直に言うてもよいよ」
「…僕、医学知識も学びます」
悔しくて、歯がゆくて、そんな風に言っていた。
薄い水色の瞳が驚いたように丸くなって、次には楽しそうに声を出して笑うシウスがいた。
「よいよ、そこは。応急処置はできるであろう? それ以上など必要になる事の方が珍しい」
「今回は必要になりました」
「ラウル…」
困った様な笑みは、そのくせ嫌じゃないんだと分かる。
苦笑するシウスはしゃがんで、ラウルと目線を合わせてくる。
「情けなかったんです、僕。シウス様が辛い時に、何も出来ないのも。あの暗殺者を取り逃がしてしまった事も。僕にもっと力があれば、ちゃんとできたのにって」
シウスの護衛なのに、全然役に立てなかった。それが悔しくてならない。
力の弱い奴だって思えてきてしまって、たまらない。このままじゃいつか愛想をつかされてしまうんじゃないか。そんな気持ちまでわき上がってきてしまう。
ヨシヨシと、シウスの手がラウルの頭を撫でる。何故か少し、申し訳なさそうに。
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