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それでも一度芯まで冷えた体はなかなか温まらない。体を抱きしめて丸くなっているが、歯の根が合わなくなってきている。
寒い。そう思っていると不意に背後の入り口が開いて、誰かが入ってくる。そしてそのまま、背を覆うように抱きとめられた。
少し甘い、温かな体が触れるだけで徐々に寒さが薄れていく。
「無茶をするな」
少し怒っているような声に、こんなに安堵する事はない。ランバートの体の強ばりは、ゆっくりと解けていく。
「状況は把握した。フェレスという男が女性達に事を説明し、説得している。明日の早朝、彼女たちに護衛をつけて一番近い砦まで送っていく。治療の必要な者もいるからな」
「有り難うございます」
「お前が礼を言うような事じゃない。俺の仕事だ」
そう言いながら、外気に冷たくなった髪を撫で、体の全てを使って温めてくれている。
ランバートの毛布に体を半分滑り込ませたファウストの腕の中で、緊張が解れて不安がこみ上げてくる。
「シウス様が…」
口にして、後悔する。言わずにいたい不安が、安心から口をついてしまった。
頭を撫でられ、体を反転させられて正面から抱き寄せられる。胸に顔を押し当てると、口にしなかったぶんの不安に勝てなかった。
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